※大人のためのコラムを掲載する本「大人のコラム」。セクシャリティ・カウンセリングでお馴染みの潮英子様の連載「セクシュアリティ・カウンセリング・ファイル」。同ファイルの“NO.7”は、まことしやかに喧伝される“セックスの効能”について。副次効果がやたら強調されるが、その実態はいかに……。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
男性誌のセックス特集には「必ずイカせる体位はこれだ!」「最高の女性器体験!」などの快楽追求型のタイトルが多いのに対し、女性向けの媒体では「セックスでキレイになる」「健康にいいセックス」といった、副次効果強調型がよく見られます。
これは女性にとって「セックス」と表紙に書かれた本を手にして書店のレジに並ぶのが恥ずかしいことだから、いやそれ以前に自分自身に対しても「性欲があるからじゃなくて、魅力的でキレイな女性になりたいから読むの」というエクスキューズになるからなのでしょう。現代日本でもまだ、性への好奇心や欲望を堂々と曝せる女性はそう多くないということだと思います。
しかしこの「キレイになる」という効能には医学的根拠はないようです。「セックスすると女性ホルモンが活性化する」と色々なセックス関連書に書かれているので、私も以前は信じていたのですが、医療従事者に聞くと、セックスの有無で分泌量が変化することはなく、セックスレスだから老化が早いといった単純なものではないとのこと。
言われてみれば、セックスレスで相談にくる中高年のクライエントさんは不思議なほど美しい人が多く、外見だけで言えばレス=老化という図式は当てはまりません。レス相談に来るのは比較的、ご主人がエリートで生活レベルの高い方が多いので、エステやファッションにお金をかけられることがキレイの理由ではないかと思うのですが、それにしてもレスと聞かなければ幸せな家庭の奥様そのものなのです。
ただ、恋人ができた友達がいきなりキレイになった、と感じたことのある人も多いはず。カウンセリングのクライエントさんでも、レスから復活したり外で恋人ができたりすると、みるみるキレイになっていくことがあり、実感としては「セックスでキレイになる」を否定できない気がします。
考えてみれば、好きな人の前で裸にならなければいけなくなると女性は本気でダイエットするし、外見にも当然気を遣うし、何より幸せな人は表情が柔らかく笑顔になるので、魅力度が増すのは当然のことなのです。男女を問わず、愛され自信がついた人は余裕の笑顔がこぼれるもの。人として一番魅力があるのはやはり笑顔なのだな、と対面していてつくづく思うことがあります。
そういうわけで、セックスにキレイの効能がある、というのは、医学的根拠は別として、一応認めてもいいのではないかと思っています。
しかし、首をひねりたくなるのが「いいセックスをすると不妊症が治る」と謳っているセックス産業です。セックステクニックを伝授する性感マッサージでよく使われるフレーズですが、仮にそのマッサージでテクニックが向上したり、オーガズムを得たりしたとしても、それで妊娠率が高まるというのは、どんなエビデンスに基づいているのでしょうか?
確かに体外受精だけではなく、排卵日のセックスも並行して行った方が妊娠率としては高まるでしょう。不妊治療に疲れてセックスの気力をなくしている奥様が、マッサージでオーガズムを得たことでセックスへの関心を取り戻し、帰宅後ご主人にセックスを求める、その結果めでたく妊娠するということもあるかもしれません。が、それは「風が吹けば桶屋が儲かる」的な確率だと思います。元々、男女のどちらかの性機能に問題があり、妊娠しにくい場合は「いいセックス」で解決するような単純なことではありません。
8組に1組はいると言われる不妊に悩むカップルにとっては、どんな手段でも試したいところで、眉唾のマッサージにも飛びつきたくなるでしょうが、不妊クリニックで多くの悩めるカップルを目の当たりにしてきた私は、こういった無責任な誇大広告に義憤を感じています。
セックスセラピーでいえば、もう一つ疑問なのが「トラウマの解消」です。先日TVでセックス依存症は滝行で解決できるというカウンセリングを紹介していました。激流に打たれる時の死の恐怖により辛い過去と直面できるのだそうです。バラエティ番組の短い尺の中での紹介だったので、たった10分、滝に打たれたら治るの? という印象を抱いてしまいそうでしたが、これは長年の研究によるエビデンスがあるということなので、画期的な方法だな、と興味を覚えました。
しかし性感マッサージでのトラウマ解決はやはり無理があると思います。レイプや近親相姦で傷ついて男性恐怖がある女性、セックスをしても何も感じなくなった女性がマッサージでいきなり快感を得たり、過去の辛い記憶を克服できたりするとは思えません。そもそも、男性恐怖がある女性が、いくらテクニックがあったとしても愛情もない他人に触られてリラックスできるでしょうか。恋人同士であるカップルでも、ぎくしゃくしている時は触られると嫌悪を感じることがあります。それほどスキンシップは心理的な要素が大きく影響するもの。性的なタッチで女性のトラウマを治すのであれば、信頼関係のある恋人と時間をかけてハグや軽いタッチから始めて、性的な感覚を受け入れていけるようなトレーニングが必要ではないでしょうか。アメリカでは性的虐待を受けたサバイバーに向けた認知行動療法のセミナーを専門医師が開講しているようですが、そのような形であればトラウマからの回復も可能ではないかと思います。
セックスが楽しく気持ちよければそれに越したことはありません。でも気持ちいいセックスをすれば何かが解決する、と最初から期待してしまうのは本末転倒かも。この人とセックスしたいと思ったからした、という単純な欲求に従うのが一番大切なことかもしれませんね。
PR
calendar
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 |
28 | 29 | 30 | | | | |
|
selected entries
categories
archives
recent comment
recommend
links
profile
search this site.
others
mobile
powered